学生の頃、オープンソースのプログラムを作って公開したところ、予想外に人気が出て、いろいろと面白い経験をした。その中のエピソードをひとつ。
あるとき、何かの用事で東京にやってきたとき、開発者の集まりがあった。そこで知り合った一人は、だいぶ年上だけどハイテンションで独特な雰囲気を漂わしていて、東京を案内してくれたりと、あれこれと親切にしてくれた。お礼を言おうとすると、仕事で使わせてもらっているから、と言って、まったく耳を貸してくれない。
一方で、私がするたわいもない話には、しっかりと耳を傾けてくれるので、氏の職場にお邪魔をして、いろいろな話をした。確か、私はこんなようなことを言った。
このプログラムはたいしたことは何もやってないし、もっとすごいプログラマはいくらでもいて、そういう人たちからパッチがきたりすると、どうも引け目を感じてしまうんですよね。
すると、氏はこんな話をしてくれた。
その昔、シンクラヴィアというシンセサイザーのお化けのようなシステムがあり、パット・メセニーのような大物ミュージシャンがこぞって使っていた。が、シンクラヴィアは何千万円もする代物で、普通のミュージシャンにはとても手が出ない。
ところが、これをぽいっと買ってしまった、無名のミュージシャンがいて、その噂が広まると、シンクラヴィアを触るために、一流のミュージシャンが彼の周りにどんどん集まってきた。そうやって一流ミュージシャンと交流しているうちに、いつのまにか彼も一流になってしまったという。
つまり、まぐれでも何でもいいから、チャンスが転がってきたら迷わずそれを利用しなさい。確か、そんなような話だった。
なるほど、そういうもんですかねえ、と答えつつ、そのパット・メセニーって何ですか?と聞くと、これは完成度が高すぎて好きじゃないから、といって、たまたま転がっていた、シークレットストーリーというアルバムをくれた。今でもよく聴く、思い出深いアルバムだ。