2009年7月 9日

パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則

パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則』を読みました。著者の江渡浩一郎さんとは面識があるのでバイアスがかかってしまいますが、感想を率直に書いてみようと思います。

 

これは類書が見当たらない、非常にユニークな本です。

まず第一に、パターン、Wiki、XP をそれぞれ別個に扱った本はよく見かけますが、これらをまとめて扱った本は見たことがありません。しかもなぜか建築まで登場します。第二に、パターン、Wiki、XP といった本にありそうな実践的なハウツーは一切なく、歴史と思想に焦点を絞っています。第三に、歴史を紐解くという形式をとりながら、優れた創造に必要な原則とは何かを探るという思索的な本でもあります。

このように書くと、ごった煮的で、何の役にも立たたず、その上、明確な答えもない、というとんでも本のように聞こえますが、実はそのようでいて、そうとばかりでもない独特な本です。

まず、パターン、Wiki、XP は建築家クリストファー・アレグザンダー氏のパターンランゲージという概念を祖先とする兄弟であることが本書を読むとわかります。一見無関係そうなものが実は共通の起源を持っていたという事実は興味をそそる題材です。さらに、パターン、Wiki、XPが共通のコミュニティによって生まれて発展が行われたというのも驚きです。これらの経緯を丹念にたどった本書は歴史本としてだけみても読み応えがあります。

一方、本書はただの歴史本ではなく、歴史をたどりながら、この共通の起源の正体とは一体何かを掘り下げようと試みています。といっても、思想の元祖であるクリストファー・アレグザンダー氏がは自らして言葉で言い表せない「無名の質」と名づけたほどの難物ですから、当然、明確な答えはありません。読み終えると何となく何かわかったような気がするけど、それが何かはっきりわからないという釈然としない読後感が残ります。

ではそんな難儀な本を読むのに価値があるのかというと、一体何なんだと考えさせてくれるところに価値があると思います。日ごろ、目下の問題を手っ取り早く片付けたいという感じのことばかりやっていると、「時を越えた創造を30分でマスターできる10の方法」的な考え方に支配されてしまい、共同の創造とは何ぞや、その原則とは何ぞや、といったことを考えることは稀です。この本を読むとそういった真面目な事柄を考えている人が世の中にいるということを思い出します。

私の場合、とかくバッドノウハウ的な事柄に注意をもってかれがちですから、ソフトウェアを作るという行為そのものを考えることは滅多になく、ソフトウェア開発が創造的な活動であることを忘れがちです。本書は、ひさびさに違った視点でソフトウェア開発について考えるいい機会になりました。

手放しでお勧めできるタイプの本ではありませんが、たまには変わったものを読んで頭をリフレッシュしてみよう、という人は手にとってみるといいのではないかと思います。

以下は余談です。

第一部の建築をテーマにした部分は、知らない分野ということもあり特に興味深く読みました。建築とは如何にと思索と実験をライフワークとして続けてあれこれ思想を発表するアレグザンダー氏(しかも発表するたびに意見が結構変わったりする)と著者の江渡さんはどこか似ているのではないかと思いました。

本書ではアレグザンダー氏の思想を通じて創造について考えるという形式をとっていますが、次回作ではぜひ、江渡さん自身の思想を大いに語ってもらいたいと期待しています。

パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)
江渡 浩一郎
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