私の情報整理術: 捨てる派の情報整理術

最終更新日: 2006-01-06

情報処理2006年3月号に向けて書いた記事の元の原稿です。


捨てる派? 捨てない派?

情報整理術は興味の尽きないトピックです。誰もが何かしらのこだ わりを持っているため、ひとたび議論が始まると、自分はこうやっ てる、俺も昔はそうやっていたが駄目だった、などと始まって収拾 がつかなくなります。これはちょうど誰もがうまいラーメン屋につ いて一家言を持っているのと似ています。

私の観察によると、ある種の人たちが情報整理術について議論を始 めると永遠に平行線で終わるようです。それは「捨てる派」と「捨 てない派」です。

捨てる派によれば、「物理的なものにしろ電子的なものにしろ、い らないものはどんどん捨ててしまえばよろしい。不要なものがたく さんあるから必要なものが見つかりにくくなるのだ。第一、ものが 少ない方が気分がすっきりする。昔から、墓場まで情報は持ってい けないと言われているではないか」ということになります。

一方、捨てない派によれば「必要か不要か簡単に見分けられたら苦 労はしない。間違って捨ててしまったら後で取り返しがつかなくな る。それに、物理的なものはともかく、電子的な情報ならかさばら ないし、検索ができるんだから捨てる必要はないじゃないか。人間、 蓄積が大事だよ」ということになります。

両者の言い分はどちらも一理ありますが、筆者はどちらかといえば 捨てる派の人間です。捨てる派と捨てない派についての議論は昔か ら盛んに行われており、それらと重なる部分が多いと思いますが、 本稿では私がこれまでに気づいた点について述べてみたいと思いま す。

後から必要になるかもしれない症候群

筆者は以前に、捨てない派の人が研究室に大量に溜め込んでいた PC やハードディスクの箱を処分しようとして、大いに不評を買った ことがあります。いわく「修理に出すときに必要になるかもしれな いじゃないか」とのことでした。このようなありがちな取り越し苦 労のことを、筆者は「後から必要になるかもしれない症候群」と呼 んでいます。

この例の場合、捨てる派は次のように考えます。

後から必要になるかもしれないということは考慮に入れますが、そ の可能性が低いこことと妥当な代替案があることを考えれば、捨て るべし、とゴーサインが出ます。

電子的な情報も捨てる

PC の箱の場合は物理的にかさばるので、保有コストがかかることは 明らかですが、電子的な情報の場合はどうでしょうか。

現在のハードディスクは数百ギガバイトが当たり前ですから、たか だか数十キロバイトのテキストを保存しておくコストは取るに足ら ないように思えます。しかし、塵も積もれば山となり、たとえばメー ルは放っておくと膨大な量になります。データが大量になると、ス ペースを食うだけでなく、バックアップなどの際にコピーや転送に 時間がかかるのも厄介です。

一方、文書などを適切なフォルダなどに整理するのは大変手間のか かる作業です。キーワードなどによる検索で容易に文書にアクセス できれば 、整理などほとんどいらないという考え方もありますが、 関連するものを何らかの形でひとまとめにしたい (フォルダに入れ る、あるいはラベルやタグをつけるなど)、という要求は残るため、 整理や分類が完全に不要になることはなさそうです。

このように、電子的な情報の場合でも保有コストはゼロではありま せん。ゼロではない以上、保有するのが割に合わないと見なしたも のはどんどん捨てていくのが捨てる派の方針です。

捨てるもの、捨てないもの

なぜ情報を整理するかといえば、後から情報を利用しやすくするた めです。当然、後から利用しない情報はとっておいても仕方があり ません。

何が不要か見分けるのは容易ではありませんが、一つ便利な目安に 「古さ」があります。古いものすべてが不要というわけではないも のの、時間の経過とともに不要になる情報は多くあります。筆者の 場合は 2, 3年以上経過した古いメールは削除するようにしています。

一方、捨てないものとしては、自分が書いた論文や雑誌記事などが あります。これらは情報としての価値を失っても「苦労して書いた」 という思い入れがあるため、削除することはなさそうです。また、 数年から ChangeLog という形式でつけている自分用の日誌も削除し ない情報のひとつです (参考文献)。

身軽でいこう

捨てる派の人間の行動パターンには、保有メリットより保有コスト の方が高ければ捨てる、という合理的な面だけでなく、捨てるのが 好きだから捨てる、という趣味的な面も多分にあります。冒頭の捨 てる派の言い分でいえば「第一、ものが少ない方が気分がすっきり する」です。

筆者の知人に、2, 3年に 1度の引っ越しのたびに所有している書籍 を厳選して、特製の収納ケース一箱に収まる分だけしか残さないと いう人がいます。筆者はそこまでは徹底していませんが、氏のよう な身軽さには憧れるものがあります。本稿が、捨てる派の行動パター ンを理解する、あるいは不要な空き箱を処分する一助となれば幸い です。

参考文献


Satoru Takabayashi